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new:第1回シンポジウムの内容が月刊地球から出版されました(2006.2.1)

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カルデラの構造と活動そして現在−Out of rangeへの挑戦

京都大学理学研究科地球熱学研究施設 鍵山恒臣

所内担当教員            森田裕一

 

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なぜカルデラ研究か?−死都日本が研究者に提示した究極の課題

石黒耀氏の「死都日本」は,火山に関わりを持つ者に数多くの話題を提供しました.この小説を火山と人との関わりを多面的に考えるきっかけにしようというシンポジウムも,静岡大学の小山真人教授らによって開催されました.本研究を主宰する鍵山も,小説の舞台である霧島火山の研究に関わっている者として話題を提供し,カルデラや大規模火砕流の研究紹介,危機管理,報道,教育など幅広い議論に加わり,実りの多いシンポジウムであったと考えています.しかし,一方で,私は無力感を感じました.現在私たちが行っている噴火予知研究が,多くの成果を挙げているにもかかわらず,カルデラ噴火に対してはほとんど無力であることを痛切に感じたからです.

噴火予知研究は,本来の志は別として,しばしば活動する火山を対象として研究が進展してきました,数日をおかずして噴火する桜島では,マグマの供給経路や噴火に至る過程が克明に捉えられて,かなりの確率で噴火の予測が行われています.また,2030年の間隔で噴火する三宅島や伊豆大島でも,深さ710km程度においてマグマの蓄積が定常的に進み,浅部にマグマが移動することによって噴火に至ることが明らかにされています.しかし,噴火間隔がこれより1桁長い数100年となると,事情は一変してきます.雲仙・普賢岳や岩手山などで発生した噴火や異常活動を研究することで,私たちの知識は断片的には増えましたが,依然として火山の噴火がどのように進んでいくのか,その全体像は捉えきれていません.たとえば,数100年の間隔をおいて噴火する火山のマグマ蓄積は,数10年の間隔をおいて噴火する火山のマグマ蓄積の10分の1のレートで進んでいると考えてよいか?よければ,これまでに解明されてきた火山学的知見を適用することが可能でしょう.それでは,数万年の間隔をおいて噴火する火山でも同じであろうか?多くの人は,同じと考える事には躊躇するでしょう.数100年,数千年,数万年の休止期を持つ火山の活動を予測する難しさは,数10年のスケールで構築された火山学的知見を,そのまま数桁外挿してもよいかというハードルと同義なのです.このハードルを越えるには,そうした火山のマグマ蓄積過程を理解する必要があります.最近緒についた富士山研究は,従来の噴火予知研究の枠をほんのわずか1桁越えた研究なのです(1桁あげるために大変な苦労をする,それが研究ですが...).

カルデラ形成を伴う噴火は,数万年に一度という従来の噴火予知研究が関わってきた時間スケールに比べて2桁以上長い現象である上に,噴火の規模も数千倍から数万倍と桁違いに大きいものです.私たち日本人が数世代生きていても遭遇することはない,しかし一旦発生すれば民族の存亡に関わるほどの規模となるでしょう.火山活動の監視など行っても無意味かもしれません.その意味で,カルデラ形成噴火は,私たちの思考できる範囲をはるかに超えた世界−out of rangeなのです.しかし,噴火予知研究の直接のターゲットには成り得なくとも,火山学研究の上から重要であることに変わりはありません.桁を越えた究極の姿を知ることは,既存の枠を1桁越えた噴火予知研究にとって,向かうべき対極を知ることになるからです.本研究は,カルデラ形成噴火を地質時代の過去のイベントとして考えるのではなく,現在の問題として,カルデラに挑戦します.どこからどう手をつければよいか皆目検討もつかない問題ですから,まず,カルデラを我々自身の身の丈で知ることを始めます.日本の主要なカルデラの活動履歴,構造,周辺のテクトニクスに関する既存の知見を数回のセミナーと補完的な観測によって集積し,活動の現況をどのように研究していくべきか,その方策を検討します.特に,カルデラ噴火を起こすマグマの供給・蓄積過程は通常の噴火の準備過程と同じか違っているか?両者の関係はどうなっているか?カルデラ噴火の準備過程は現在も進行中であるか?に焦点を絞ります.